京都で天然素材の服をつくるNADELLが、滋賀で織られた太番手の麻を墨で染め、ロングワンピースとプルオーバーに仕立てました。反物の端にいちばん濃く入る色を、体のまん中へ持ってきています。一枚ずつ色の出方の違う服の、つくり方の話です。

アトリエの机に、一反の布を広げます。端から端まで、同じ灰色には見えません。両の端が濃く、まん中に向かって、少しずつ淡い。墨で染めた麻の反物は、いつもこの表情で戻ってきます。
墨染のこの濃淡をどこに置くかで、服の見え方はずいぶん変わります。今回は、いちばん濃い端どうしを、体の中心で縫い合わせることにしました。
布は滋賀で織られています。琵琶湖の東に広がる近江の地は、湿り気をふくんだ風が吹き、麻の糸が切れにくい。だからこの土地では、長いあいだ麻の布が織り継がれてきました。
使っているのは太番手(ふとばんて)の麻です。太番手とは、糸が太いということ。細い糸ほど布は薄くなめらかになり、太い糸ほど、織り上がりに凹凸が生まれます。
指を滑らせると、麻の節(ふし)にわずかに引っかかります。着るうちにその角が丸くなり、洗うたびにやわらかくなっていく。これから育っていく布だと思っています。

墨染(すみぞめ)は、墨、つまり煤(すす)で布を染める、日本に古くからある天然の染め方です。
ふつうの染料は、繊維の内側まで溶け込んでいきます。墨はそうではありません。ごく細かい炭素の粒が、繊維の表面に留まります。だから色は、黄みのない、つや消しの灰色から黒へ。平らに塗りつぶした黒ではなく、奥に少し深さのある、温かみをふくんだ色になります。
粒が表面に留まるということは、時間とともに動くということでもあります。洗うたび、こすれるたびに、少しずつ淡くなる。糸の凹んだところに墨が残り、盛り上がったところから抜けていくので、経つほどに織りの目が見えてきます。デニムの色落ちに近い変わり方かもしれません。
この服は、仕立てる前の一反の布のまま染める「反物染め」です。今回の反物は、端のほうに染めが強く入り、中心に向かってだんだんと淡くなって上がりました。
前身頃も後身頃も、その濃い端どうしを合わせて、体の中心で縫っています。中心はぎ、と呼んでいます。着ると、背骨のあたりがいちばん濃く、腕のほうへ向かって淡くなっていく。反物の上で端にあった色が、服になると体のまん中に来る。そのことが、つくっていておもしろいところでした。
濃さの入り方は一反ごとに違います。同じ型でも、正面に出る濃淡は一枚ずつ変わります。同じものを二枚つくれない染め方です。

いちばん濃いところは、
もともと、いちばん端にあった。
肩には、京都で織られたシルクを合わせました。タック加工という、布を細かくたたんで細い畝(うね)をつくる加工をほどこしています。
畝の入り方は、一枚ずつ異なります。光の向きによって、黒がまっすぐな線に見えたり、やわらかく沈んで見えたりします。麻のざらりとした手ざわりのすぐ隣に、シルクのなめらかさがある。触り比べると、境目がはっきり分かります。
肩から袖の上側へ、その黒がそのまま続きます。ここに一本の線が通ることで、首から肩にかけての印象がすっきりと整います。装飾としてだけでなく、体の輪郭を美しく見せる線として取り入れました。

ひとつは、ロングワンピース。肩から裾まで、体に沿わせずに、布そのものの落ち方にまかせています。歩くと、麻の重みで裾がゆっくり動きます。
もうひとつは、プルオーバー。上半身はゆったりと、裾に向かって少しずつ広がります。袖口を広めに取っているので、水仕事のときにまくり上げやすい長さです。
どちらも後ろ襟ぐりにファスナーをあしらい、端正な襟元はそのままに、着脱しやすく仕上げました。
同じ墨染めの麻で仕立てたノーカラージャケット。深めのVラインに三つの貝ボタンを斜めに配し、右側にはポケットを備えています。
着用や洗濯を重ねるほどに、墨色は少しずつやわらぎ、麻も肌になじんでいきます。
その変化も、天然の墨染めならではの魅力です。
墨染の服は、色移りしますか。
することがあります。墨は繊維の表面に留まる染めなので、雨や汗で濡れたとき、また摩擦の強いところから色が動きます。白いものや明るい色のものと重ねて着られるときは、お気をつけください。
洗い方を教えてください。
単独で、水またはぬるま湯(30度まで)の手洗いをおすすめします。中性洗剤を薄めて、押すようにやさしく。漂白剤と柔軟剤は入れずにお洗濯ください。洗濯機をお使いのときは、洗濯ネットに入れて、いちばん弱い水流で。脱水は三十秒ほどの短い時間で足ります。
干し方は。
しわを手で伸ばしてから、風の通る日陰で平干し、または吊り干しに。直射日光は色を早く動かしますので、陰干しでお願いします。アイロンは中温で当て布をして、少し湿っているうちに掛けると落ち着きます。
色は、どのくらい変わりますか。
着る回数と洗う回数によって変わりますので、一律にはお伝えできません。糸の凹んだところに墨が残り、盛り上がったところから先に抜けていくので、淡くなるにつれて織りの目が見えてきます。その変わり方も含めて、お手元で育てていただけたらと思います。
同じ服が、二枚とありません。
届いた一枚が、その方のものになります。